仕掛品の棚卸|どこから数えるかの線引きと、現場で数え切る方法
仕掛品の棚卸について調べると、上位に並ぶ記事の多くは仕訳の書き方と評価額の計算方法が中心です。会計処理の解説としては正しいのですが、棚卸当日に現場で起きていることとは距離があります。
一方で、現場向けの定石が無いわけではありません。工程を定義して品番を振る、という進め方です。これが回る現場では、仕掛品の棚卸はそれほど難しくありません。
問題は、その定石が前提としている条件が揃わない現場があることです。この記事では、まず法令上の区分と定石を確認したうえで、定石が回らないときにどう進めるかをご紹介します。
この記事でわかること
- 仕掛品・半製品・原材料を分ける法令上の基準
- 定石である「工程・品番・原価」の3手順と、それが効く条件
- 定石が回らない現場での、置き場による線の引き方
- 数える単位と呼び名を現場に決めさせない役割分担
仕掛品と半製品、原材料の線は定義されている
区分の考え方は、金融庁の「財務諸表等規則ガイドライン」に書かれています。
| 区分 | 定義 | 出典 |
|---|---|---|
| 原料及び材料 | 製品の製造目的で費消される物品で未だその用に供されないもの | ガイドライン15−8 |
| 仕掛品 | 製品、半製品又は部分品の生産のため現に仕掛中のもの | ガイドライン15−9 |
| 半製品 | 中間的製品として既に加工を終り現に貯蔵中のもので販売できる状態にあるもの | ガイドライン15−7 |
※原料及び材料の定義には「半製品、部分品又は貯蔵品に属するものを除く」という但し書きが付きます。表では要点のみを抜き出しています。
判断の軸は2つです。製造に投入したかどうか(原材料か、それ以降か)と、そのまま販売できるかどうか(仕掛品か、半製品か)。
このガイドラインは金融商品取引法にもとづく財務諸表の作成に関するもので、中小企業にそのまま適用されるわけではありません。ただ、区分の考え方としては広く参照されています。自社の決算での扱いは、顧問税理士や会計士にご確認ください。
つまり、線引きの基準そのものは存在します。にもかかわらず現場で判断が割れるとすれば、その判定を棚卸当日に、棚の前で、一人ひとりにさせていることが原因ではないかと考えています。
定石は「工程を決めて、品番を振る」
仕掛品を棚卸資産として計上する手順は、次の3つに整理されています。
- 工程を決める — 「原材料→工程1→工程2→工程3→製品」のように段階を定義し、棚卸時点でどこまで進んでいるかで識別する
- 品番を決める — 仕掛品には通常は品番が無いので、工程の段階ごとに品番を採番し、部品表(BOM)を整備する
- 原価を決める — 使った原材料費に、その工程までの労務費と間接費の配賦を加える
この形が作れていれば、棚卸は「どの工程の品番が、いくつあるか」を数えるだけになり、棚の前で迷う場面がほとんど無くなります。
この進め方が力を発揮するのは、次の条件が揃っている現場だと考えています。
- 工程の区切りがはっきりしていて、どこまで進んでいるかが見て分かる
- 品番を振る対象が安定していて、採番が現物の発生に追いつく
- 工程の進捗が、記録として残る仕組みがある
機械加工や組立のように、工程が物理的に分かれていて仕掛品が個体として存在する製造では、この条件は満たしやすくなります。
定石が回らない現場で起きる3つのこと
食品の加工のように、原材料が形を変えながら連続して進む製造では、上の条件が崩れることがあります。
1. 工程の進み具合が、見ただけでは分からない
漬け込み中のものと、漬け込みが終わったものが、同じ見た目で並んでいることがあります。判定できるのは担当者の記憶だけ、という状態です。
「第2工程が終わっているか」を棚の前で判定させると、判断できる人が休んでいるだけで棚卸が止まります。翌月には別の人が別の判定をします。
2. 品番を振り切る前に、次が入ってくる
回転が速い現場では、採番が現物の発生に追いつきません。振れなかった分は品番の無い在庫として残り、結局その場の判断で処理されます。
3. 台帳に無いものは、棚卸リストにも載らない
実地棚卸のやり方は、代表的なもので3つあります。
| 方式 | 進め方 | 弱点 |
|---|---|---|
| リスト方式 | 事前に作った一覧を持って、現物を確認していく | リストに載っていない現物が拾えない |
| タグ方式 | 現物にタグ(棚札)を貼り、数量を書いて回収する | 事前準備と教育が必要。タグの記載・回収に時間がかかる |
| バーコード方式 | バーコードを貼り、ハンディターミナルで読み取る | 貼れない在庫では成立しない(詳しくはこちら) |
品番の無い仕掛品は、リスト方式ではそもそもリストに載りません。数え漏れというより、最初から対象になっていない状態です。
ではタグ方式なら拾えるかというと、タグに書く品番が無いという同じ問題に戻ります。名前を手書きすれば拾えますが、今度は書く人によって呼び名が変わります。
判定の結果を、あらかじめ置き場に写す
定石が回らない場合の進め方として、線引きの判定を棚卸当日から切り離すやり方があります。
工程の判定を現場にさせるのではなく、判定した結果を物理的な置き場に反映しておきます。
- 仕込み場の作業台に出ているものは数えない
- 冷却棚に移したものから、仕掛品として数える
- 出荷用のカゴに入ったものは、製品として数える
こうすると、現場は目で見て判断できます。入ったばかりの人でも、その日から同じ判断ができます。置き場で分けられない場合は、札やカゴの色で代用できます。
どの線を選ぶかより、毎回同じ線で引くこと
同じ在庫でも、線の引き方によって仕掛品として数えるか、原材料や製品として数えるかが変わります。どちらで数えても、決めた線を全員が守っている限り、在庫が抜け落ちることはありません。
問題になるのは、線が棚卸のたびに動くことです。先月は冷却棚から数え、今月は仕込み場から数えたとすれば、その差分がまるごと差異として出ます。
線を決めたら、決めた内容を紙1枚にして現場に貼っておいてください。棚卸のたびに口頭で確認し直している限り、少しずつずれていきます。
そもそも仕掛品を残さない、という選択肢
線を引く話とは別に、棚卸の時点で仕掛品が存在しない状態を作るという考え方もあります。手順は3つです。
- 棚卸の時点で作り切る生産計画を立てる
- 計画を守り、生産の遅れを出さない
- 棚卸時期の急な出荷要請を、営業・顧客と調整して避ける
仕掛品がゼロなら、計上も評価も必要ありません。工程が短く、1日で作り切れる製造なら、線引きを考えるより確実です。
ただし、冷却・熟成・発酵のように時間の経過そのものが工程になっている製造では、仕掛品をゼロにはできません。丸一日寝かせる工程があれば、棚卸日をどこに置いても何かが途中の状態で残ります。この場合は、線を引く話に戻ります。
数える単位と呼び名は、現場に決めさせない
線引きが決まると、判断で止まる場面は大きく減ります。ただ、それだけでは記録が揃いません。仕掛品には、仕入れた商品には無い問題が2つ残ります。
単位を現場に換算させない
仕掛品は、数えられる形になっていないことがあります。トレーに広げた状態、大きな鍋に入ったままの状態、箱に積んだ状態。
「何個ですか」と聞かれても答えようがないので、現場はその場で換算を始めます。トレー1枚は何kgか、箱1つは何個分か。この換算を現場でやると人によって答えが変わり、しかも換算した時点で元の数がいくつだったのかは記録から消えます。
現場には、現物の数え方をそのまま入れてもらいます。
- トレーに広げてあるなら「トレー3枚」
- 箱に積んであるなら「箱2つ」
- 袋のままなら「袋5」
換算ルールは事務所側で品目ごとに持っておきます。トレー1枚が何kg相当かを決めるのは事務所の仕事で、棚の前に立っている人の仕事ではありません。こうしておくと換算前の数字が記録に残るので、あとからルールを直したくなったときも数え直しに行かずに済みます。

数量を「20×5+6」のような形で入れられると、段の数と1段あたりの数を見たまま入力できます。暗算した結果だけが残ることもありません。
呼び名を先に決めておく
品番の無いものには正式名称もありません。「仕込み済みのタレ」「Aのタレ」「タレ(2番)」のように、書く人によって名前が変わります。事務所で集めたときに同じものだと分からず、別々に集計されたり、どれか1つだけが計上されたりします。
名前の付け方を先に決めておくと、このゆれは収まります。おすすめは「原材料名+工程」の形です。
| 書き方 | 例 |
|---|---|
| 推奨 | 鶏もも/漬け込み済み、玉ねぎ/カット済み |
| 避けたい | Aのタレ、2番、仕込み済みのやつ |
元になった原材料の名前が頭にあると、事務所側で何の仕掛品か判断できます。工程名が後ろに付いていれば、同じ原材料の別状態とも区別できます。
写真とAIで、台帳に無い仕掛品も棚卸に載せる
弊社が提供しているラクだなは、バーコードが使えない在庫のために作った棚卸アプリです。品番の無い仕掛品も、そのまま棚卸に載せられます。
現場はスマホで現物を撮って数を入れるだけです。品目を選ぶ必要はなく、名前が分からないものも記録できます。リストに載っていないものを拾えない、というリスト方式の弱点がここで外れます。

事務所側では、写真を見ながらAIが並べた候補から品目を選びます。商品登録の権限を持つ担当者であれば、候補に無いものは「新規商品登録」タブでその場で登録できます。必須の入力は品目名だけなので、棚卸を止めてマスタ管理画面へ移動する必要がありません。
- 割り当てを確定した写真はAIの判断材料として蓄積されるので、見た目でしか区別できない仕掛品も、回を重ねるほど候補に出やすくなる
- 棚卸の前に、今月分の品目をマスタへ登録しておく準備は不要
- 冷蔵庫や冷凍庫の中など、電波が届かない場所でも撮影と数量入力ができる(事前に電波の良い場所で撮影一覧画面を開いて準備しておく必要があります)
- 棚卸表・金額・前回との差異まで自動で仕上がり、CSVでも出せる
食肉加工・製造のタカラ食品工業株式会社様(約800品目)にも、紙の棚卸リストに無い商品の数え漏れをなくす目的でお使いいただいています。機能の詳細はラクだなの機能、実際の画面は使い方でご覧いただけます。
なお、現物を数える作業そのものは人の仕事のままです。短くなるのは、数える前の準備と、数えたあとの特定・換算・集計です。棚卸の時間配分については棚卸に時間がかかる原因、バーコードやラベルが使えない在庫の考え方はバーコードが使えない在庫の棚卸で整理しています。
まとめ
仕掛品の棚卸についてまとめます。
- 原材料・仕掛品・半製品の区分は、製造に投入したかと、そのまま販売できるかの2軸で定義されている
- 定石は工程を決めて品番を振ること。工程の進捗が見て分かる製造では、これがもっとも早い
- 工程が見た目で判別できない・採番が追いつかない現場では、判定の結果を置き場に写す
- どの線を選ぶかより、毎回同じ線で引くことのほうが差異に効く
- 棚卸の時点で作り切れるなら、仕掛品を残さない生産計画も選択肢になる
- 単位の換算と呼び名の決定は事務所の仕事。現場は現物の数え方のまま記録する
まず、自社の仕掛品に品番が振られているかを確かめてみてください。振られているなら定石が使えます。振れていないのであれば、振りに行くより、置き場で線を引くほうが早く形になります。
棚卸のやり方を具体的に知りたい方には、圧倒的にラクにする棚卸の方法を無料でご用意しています。
※本記事の内容は2026年9月時点のものです。
よくある質問
- Q. 仕掛品と半製品、原材料はどこで区別しますか?
- A. 金融庁の財務諸表等規則ガイドラインでは、原材料は「製造目的で費消される物品で未だその用に供されないもの」、仕掛品は「製品、半製品又は部分品の生産のため現に仕掛中のもの」、半製品は「既に加工を終り現に貯蔵中のもので販売できる状態にあるもの」と定義されています。判断の軸は、製造に投入したかどうかと、そのまま販売できるかどうかの2つです。中小企業に直接適用されるものではないため、自社の決算での扱いは顧問税理士にご確認ください。
- Q. 仕掛品の棚卸は、何から手をつければいいですか?
- A. 工程を定義し、工程ごとに品番を採番して原価を決めるのが定石です。この形になれば、棚卸の時点でどの工程まで進んでいるかを見て計上できます。ただし工程の進み具合が見た目で分からない現場や、品番を振り切る前に次が入ってくる現場では、この前提が崩れます。
- Q. 工程で線を引けない現場はどうすればいいですか?
- A. 判定の結果をあらかじめ置き場に写しておく方法があります。「冷却棚に移したものから数える」のように、見ただけで判断できる形にします。棚卸のたびに線が動くと、その差分がそのまま差異になるため、一度決めたら同じ線で引き続けることが大切です。
- Q. 仕掛品を棚卸の対象から無くすことはできますか?
- A. 棚卸の時点で作り切る生産計画を立て、計画を守り、棚卸時期の急な出荷要請を営業・顧客と調整すれば、仕掛品を残さない運用は可能です。ただし冷却・熟成・発酵のように時間の経過そのものが工程になっている製造では、仕掛品をゼロにはできません。
- Q. 仕掛品を数える単位はどう決めればいいですか?
- A. 現場に単位を決めさせないのが基本です。現場にはトレー3枚・箱2つのように、現物の数え方をそのまま記録してもらいます。評価単位への換算ルールは事務所側に持たせます。現場で換算させると人によって答えが変わり、換算前の数も記録から消えます。
関連コラム
バーコードが使えない在庫の棚卸|貼らずに進める方法と判断基準
生鮮・加工後の中間財・小分け品のように、そもそもバーコードを貼れない在庫があります。バーコード前提の棚卸が合わない理由と、バーコードに頼らずに棚卸を回す進め方を整理しました。
棚卸に時間がかかる原因|準備・現場・集計から短縮する5つの方法
棚卸が終わらない原因は「数えるのが遅いから」ではありません。準備・現場・集計のどこに時間が消えているのかを分解し、紙とエクセルのままでも今日から効く短縮策を5つにまとめました。

